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category外伝

女神の加護(前編)

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外伝第二弾でございます。
まぁ、これも本編読んでなくても楽しめるように書いてます(つもりです)。
練習も兼ねて、今回は一人称形式です(笑)。慣れないので悪戦苦闘しましたが、ま、そこは厳しく採点してやって下さい。

では、ごゆっくりどうぞ。



◆外伝◆ 女神の加護(前編)


 船首には風雨に曝されて青い錆の浮いた女神像が佇んでいる。荒波を切り裂いて航行する眼前の泡飛沫の冷たさから己が身を守るように両腕で抱いて。その女神の手首から先は、両方とも存在しなかった。
 俺の立つこの場所からはその顔(かんばせ)は見えないが、左目は閉じている。
 何故なら、彼女は海の女神セドナだからだ。古き神話の時代より、海の守り神とされてきた。海に生きる者の主であり、また、海の冥府の番人でもある。
 生と死の両方を司る彼女を崇め奉る事で、海の豊穣を願い、そして船上で生きる者達の安全を願っているのだ。だから、船首を飾るのは男神ではなく女神でなければならぬのだという。
 この広い海洋の上を駆る俺達人間は、あまりにも小さい。例えこの商船が並の船よりでかくても、漕ぎだしてしまえば糞の役にもたちゃしねぇ。
 せいぜい、天の気が荒れぬ事を祈り、海獣共が暴れぬように願う事くらいだ。
 それでも、日頃の行いが悪けりゃ気は荒れるし、運が悪けりゃ海獣にも襲われる。
 ま、日頃の行い云々はともかく気の乱れはどうにもならねぇが、海獣に関しちゃ黙って指をくわえて見ている訳にもいかねぇ。
 そこで俺のような人間が護衛の為に乗り込んでいるという訳だ。
 今日の航海はすこぶる順調。天候は晴れ。大気の精は穏やかだが、帆を膨らませる程度には活きがいい。
 緩やかに撫でて行く風に混じる潮の匂い。この磯臭さにももう慣れた。それこそ、俺の体臭の一部となっている程度には。
 だが、娼館の姐さん方の受けはあまりよろしくない。俺がこうして汗水垂らして稼いでるからだってのによ。
 眼前にはどこまでも広がる深い藍。白から蒼へと変わりゆく空。そして、容赦なく肌を焼く日差し。太陽神サンドラは今日もご機嫌うるわしく。
 波をかき分ける音だけが、この船が前進しているのだと実感させる。
 こうも安穏としていると、無意識に欠伸が出ちまうのが難だな。それを噛み殺しながら、俺は腰に吊った小物入れから水薄荷(みずはっか)のパイプを取り出した。
『カント』
 簡単な呪を唱えて、火を付ける。
 管の口から立ち昇ってくる白い蒸気を、肺を満たすようにゆっくりと吸い込む。
 食道、肺、気管を巡って行くそれが、内側に清涼感をもたらしてくれる。
 ああ、やっぱり薄荷はいい。スッとする。
 緩慢な潮流を眺めながら浸る、至福の時。
「珍しいもの持ってるのね、オジ様」
 後ろから聞こえた子供の声に、思わず眉を顰める。
 どこのガキだよ、俺の一服を邪魔するのは。しかも、オジサマだと? そろそろ若くはない事を自覚し始めているからこそ、余計にその一言が抉るんだ。
 釈然としないが仕方がない。諦めて振り向いた。と同時に驚く。
 俺の前には、眼を見張る程にべっぴんの嬢ちゃんが立っていたからだ。年の頃は十くらいか。
 頭に巻いた更紗のバンドゥヌの隙間からこぼれている金髪は顎元までの長さの直毛。見下ろす形になった人形めいた小さな顔に嵌った瞳は、この大海原を包む大気の蒼と同じだった。長い睫毛に縁取られた愛くるしい目元。ふっくらとした真っ白な頬はいかにも肌理(きめ)が細かそうだ。将来はさぞ男を狂わせる女になるに違いない。下種な俺の下世話な予想でしかないが。
 船員と同じ衣を身につけているものの、ズボンが少々大きいのか、ブーツからはみ出した裾の部分が空気を含んで膨らんでいる。
 そいつは振り向いた俺に、ゆるり、と笑ってみせた。
 惜しかったな嬢ちゃん。嬢ちゃんがもう十ばかし年嵩だったら俺は確実に落ちてたね。だが俺は齢三十も半ばのオッサン。その手には乗らねーんだ。
「ガキに薄荷は早いぜ」
 そう言って、皮肉に笑って見せてやる。大抵のガキはこれでビビるんだ。
「あら、アタシが言っているのは中身じゃなくてパイプの方」
 俺の挑発には乗らぬとばかりに、木苺のような紅い口元に笑みを絶やさずそう言う。
 中々侮れないガキだ。このパイプの珍しさがわかるのか。
 愛用しているパイプは、学生時分の古いダチに無理言って造らせた特注品だった。
 玻璃(ガラス)で出来たそれは、本体の部分が三層に分かれていて、下段が酒精、上段に水が入っている。中段に種(たね)を詰める穴が空いていて、そこに固形薄荷を詰めて下段の酒精に火を付ける。すると種が燃え、暖められた蒸気とともにその香気が管を通って口元に流れる仕組みになっている。
 興味深そうに、俺の手元を大きな眼で覗き込んでいる。
 あまりにも熱心にしげしげと見入っているので、まぁいいかと火を消して差し出してやった。
「底の方は持つなよ?火傷するぜ。それから、絶対落とすな」
 語尾を強めたのは大人げないかもしれないが、なんせこいつは壊れやすい。
 ちょいとキツかったかと思ったが、嬢ちゃんは気にした様子もなくうれしそうに笑ってパイプを受取った。本体と送気管の継ぎ目部分についている持ち手を挟む指が小さくて、思わず笑った。似合わねぇ。
「で、嬢よ。お前はどこの子だ?」
「アタシは船主のウィック商船の三番目よ」
 そのうち解体し始めるんじゃないかというくらいの勢いで裏返したり陽にかざしたりしている子供の言葉に、一瞬耳を疑う。
「あ?」
 我ながらひどく間の抜けた声が飛び出した。
 さすがにそりゃ驚くぜ。ウィック商船っていや、バラッサ海峡を根城にそうとう手広く商ってる豪商だぜ? そんな所の令嬢が、何で商船に乗る必要があるんだよ。そもそも子供が船に乗るって事自体が既に珍しいのによ。
 そんな俺の胸の内を察したか、目の前のお嬢様は事もなげにのたまう。
「お父様の教育方針なの。従業員の苦労が分らなくては、人の上には立てないって」
「人の上・・・ねぇ。金持ちの考えはわかんねぇな。そもそも嬢は嫁に行っちまうだろうよ」
「嬢じゃなくて、シェリー」
 ほとんど独白に近い俺の台詞を遮って、少し不機嫌そうな声が言う。
 無意識に空を仰いでいた視線を戻すと、本当に不機嫌な面(つら)がそこにある。
 怒った顔もめんこいな、コイツ。いや、俺にそっちの趣味はねーんだぜ? あくまで、客観的に見てもって事だ。
「オジ様の名前は?」
 またオジサマって言いやがった。
 なけなしの矜持でどうにか表情に出すまいと努めながら、口を開く。
「俺か? 俺は、シグネス。シグネス=オルドー」
 ようやく満足したのか、パイプを差し出して「ありがと」と満面の笑みを零す。
 返事代わりに眉を上に動かしながらそれを受取った。うっかりなんて事がないようにすぐにしまう。
 そんな俺の様子を、シェリーはにやにやしながら見ていた。
 なんかたくらんでやがるな、コイツ。
 娼館には口減らしで売られる子供も多い。さすがに毛も生えそろわねぇうちから客の相手をさせられる事はないが、そういう子供達は店の小間使いをしながら生活している。
 まぁ、嫁も愛人(こいびと)もおらんし、俺もいい年の男だし、そういう所に出入りしている。何故だか解らねえがそこのガキからやたら懐かれるんだよな。
 今のお嬢ちゃんは、そいつらと同じ眼をしている。最も、育ちが良いせいか蓮っ葉な感じはしないんだがな。
 しょうがないからガキのいたずらに付き合ってやるかと、大人の余裕でゆったりと構えていると、何を思ったかズボンの腰紐を解いて前に大きく引っ張る。
 そして、蒼い瞳を、中を見ろと言う様に動かす。
 待て待て、俺は本当にそっちの趣味はねぇんだっての。
「大丈夫だって」
 何が大丈夫なんだか。
 ま、いいか。中身は子供のケツだ。本人合意の上だし、俺が悪いんじゃないよ・・・な?
 恐る恐る大きく開いたそこを覗き込む。
「!!」
 ついてやがる。俺と同じモン。
「これじゃ詐欺じゃねーかよ、小僧」
 脱力しながら頭を抱えた俺に、お坊ちゃまはまた満面の笑みをこぼした。



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〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学

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