FC2ブログ
categoryスポンサー広告

スポンサーサイト

trackback--  comment--
上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。
category外伝

女神の加護(中編)

trackback--  comment--
前後編で終わらせるハズが、どうやらまたもや文量のバランスがとれなさそうなので、中途半端ですがアップします。いつもいつも文章として起こしてみたら思ったよりも長くなるというこのダラダラぶり。
サクッと読みたい方、すみません。それでは中編をどうぞー。






 してやったりとズボンの腰紐を締め直しているシェリー坊やを呆れ気味に見やって、俺はため息をついた。
「悪戯の作戦は成功か?」
 俺の問いかけに首を反らせて上目がちに仰いでいるその顔は、やはりどう見てもお嬢ちゃんにしか見えない。
 作戦も何もあったもんじゃない。初対面の人間なら、十人が十人とも騙されるだろうよ。全くもって、紛らわしいぜ。
「悪戯? 何が?」
 悪びれもせず、きょとんとした表情を浮かべる小僧。どうやって仕置きをくれてやろうか。
「お前のナリじゃ、騙されるだろうがよ。挙句に女言葉まで使いやがって」
 苦笑いを浮かべながら答える。頬の筋が攣りそうだ。
「挙句にだなんて失礼ね。アタシはいつもこうなのよ、オジ様」
 腰に両手を当て、胸を張って鋭い視線を投げてくる。その様子はかなり似合っているが、まともに考えたら拙いだろう。どういう環境で暮らしたらそうなるのか教えてもらいたいね。
「じゃ、何か。お前は女になりたいのか」
 俺の言葉に、そいつは片頬を歪めて鼻で笑う。
「アタシはアタシよ。そんな事もわからないの?」
 見下したようにせせら笑うシェリーに、妙な敗北感を味わう。なんだか懐かしい感覚だが、その訳が解らない。
「オジ様、馬鹿?」
 解った。こいつはアレだ。女に見下された時と同じ感覚だ。
 この際、男だとか女だとかはちぃせえ事だ。小僧がこましゃくれてるってのはよーっくわかったぜ。
「言わせておけば、このクソガキ!」
 軽いゲンコをくれてやろうと緩く握った拳を振り下ろす。
 小さい頭に衝突する寸でのところで、ひらりとそれをかわされた。声変わり前の高音域の笑い声を響かせながら、甲板を走り去って行く。
 その後ろ姿を視線だけで見送って、深い溜息を吐きだした。
 交代までまだ時間があるってのに、疲れちまったじゃねぇかよ。ま、薄荷よか余程効く眠気覚ましだったけどな。
「さて、と」
 いつまでも遊んでる場合じゃない。仕事、仕事。


 さすがに夜の見張りは寒い。
 見上げる空はどこまでも果てしなく冥い(くらい)。天も地も渾然と混ざりあい、この小さな船は女神の腹ん中だ。
 冥府に辿り着いた者の魂がごとく、塗り込めた闇に灯る星の数よ。天海に沈む月が二つ、青白い光を放っていた。
 何も起きなければ退屈なだけの仕事だが、この眺めもまた俺のささやかな楽しみの一つ。今日も、純粋ではなくなった俺を洗うかのように綺麗だ。
 行き違う船同士の衝突を避けるためにともされた松明で暖をとりながら、遠ざかって行く海路を見通し続ける。
 ずっと同じ場所、同じ時間の見張りは神経が慣れて却って危険なので、三日毎に持ち場が変わる。
 今日の持ち場は船尾。艫(とも)には、虚空をにらんだ犬の像。セドナを掲げるどの船にも、舳先を守る彼女と対のそれが必ずある。何故なら、その神犬は彼女の夫であるからだ。
「お前は良いな、いつも伴侶と共にいられて」
 己らしくもない感傷的な言葉を吐きながら、体温の失せた頬を崩す。
 自嘲気味な笑みが途切れかけたその隙間。
「意外と・・・」その場にひどく不似合いな声が届いて真顔になった。
「寂しがり屋さんなのね、オジ様」
 冷えた顔が、一気に熱を帯びるのを感じた。クソ! あーっ、恥ずかしっ。
 振り返らずに口を開く。
「ガキは寝んねの時間だぞ」
「あら、折角お茶持って来てあげたのに」
 ばつの悪さを感じつつも振り向いた。松明に照らされて陰影の濃くなった小僧の表情は分かりにくい。暖かそうな湯気の立ち上るコップを二つ盆に載せ、それを両手に歩いてくる。
 俺の心中とは裏腹に、近づいてくるシェリーは初めて会った時と変わらずに緩やかな笑みを浮かべていた。
 そばまでやってきて高く差し出されたそれを無下にする訳にも行かず、「ありがとうよ」と言いながら一つ受け取った。
 それは羞恥心さえも掻き消す程、爪の先まで冷え切った手に暖かかった。
 遠慮なく口をつける。粉乳と蜜の入ったお子様仕様の味だが、意外と悪くない。
 体の内側までも温めてくれる茶をもう一口すすって、声をかける。
「どうした、眠れないのか」
 見下ろしたシェリーは、固い表情で首を振った。
「そうじゃないの・・・でも、気が騒いでいるきがして」
「気が騒ぐ?」
「口では上手く言えないけど・・・」
 盆を小脇に挟んで、小僧も茶を口にする。
「嫌な色が、風に混じっているわ。ごく薄く、だけど」
「色ってな、何だ」
 さっきからこいつの言わんとする事が掴めない。何が言いたい、お前の眼には何が映っているんだ。
ためらう様に「信じてもらえないかもしれないけど・・・」と吐き出す。
「アタシ、人の発している気の色が視えるの。いつもなら風の色までは視えないわ。でも、今日は少し違う。嫌な色が、混じってる」
 シェリーの言葉に瞠目する。
「普通は信じないんだろうな、お前の言葉」
 俺の言葉に、今度は坊やの方が驚いた表情を浮かべる。信じるとは思ってなかったんだろうな。
「信じるの? アタシの言った事」
「ああ」
 少しずつ暖かみの褪せてきている手の中の茶に名残を惜しむように口をつける。温くなったそれは、さっきよりも甘ったるい。
 俺の眼には深い闇でしかない大気を見つめながら、先を繋いだ。
「俺はよ、呪力が弱くて巡導師にはなれなかったんだ。だが、学生時分のダチに変わったやつがいてな。そいつは、組んだ呪が帯状の記号になって目視できると言ってた」
 もう何年も会ってないダチの、若いまんまの姿が脳裏に浮かぶ。ちびっこくて、童顔で、薄茶色の癖っ毛のアイツは、いつものほほんと笑ってたな。今会ったら少しは歳食ってるかな。なんせ俺がこんなにオッサンになったんだからよ。いや、変わってねぇ気もするな。
「世の中にはよ、そんなやつもいる。だから、お前の言う事だって本当だろうさ」
 昼間は鋭い日差しから地肌を守るために巻いているバンドゥヌも、夜には必要ないのか俺からはつむじが見える。子供だけが持つ柔らかい毛髪に手を載せた。そして盛大に掻き回す。
 されるがまま、「うん」とシェリーは頷いた。
 手の中の残りを一気に呷って、考え込む。しかし、コイツが言う事が確かなら、少々まずいかもしれねぇな。
 俺のダチの話にはまだおまけがある。アイツは自分の才能をひけらかすやつじゃなかったから噂でしか耳にしてないが、呪の構成を目視する能力を持つ者は、人には透えぬ(みえぬ)ものを見、不可思議な現象を本能で察知し、天候を聴くのだという。
 形は違えども、アイツと同じように普通の人間には視えないものを視る子供。それが真実なのだとすれば、今夜あたり来るかもしれねぇな。
「今夜は危ないかもしれん。お前、そろそろ中に入れ」
 そう言って、空になったコップを渡そうとした瞬間だった。

 ドオン!―――

 何かに激突したような音が前方から聞こえ、船が大きく揺れる。その動きに沿って、ぱあんと海水が弾ける。松明の炎がぐらぐらと湾曲して流れる。
 衝撃で体制を崩したシェリーの手から、中身を撒き散らしながら弧を描いて落ちてゆくコップを眼の端で捉える。
 俺はとっさに小さな体を引き寄せて、体制を低くしながら船の縁に背を押しあてた。
 甲板は大きく揺れている。船首の方向から怒声や叫び声が聞こえる。
 腕の中の坊やは黙っていたが、激しい心拍が俺の腕に伝わっていた。
「大丈夫か?」
 一瞬の間を置いて、俺の問いかけに黙って頷いた。無理もない。怖くて声も出ねぇよな。
「俺は行かなきゃならん。揺れが収まったらすぐに中に入れ、わかったな?」
 このまま放って行くのは忍びないが、俺は役目を果たさなけりゃならん。この船に乗っているのは、坊やだけじゃねぇんだから。
「わかったわ」
 面は色を無くしていたが、今度はしっかりと返事をしたシェリーに笑ってみせて、その小さな身体を縁に添わせてやった。たく、俺は娼妓の姐さん達にだって、こんなに優しかないんだぜ。
「安心して待ってろ、すぐに終わらせてやる」
 踵を返して大見栄張った俺には、坊やが返事をしたのかどうかはわからなかった。
 長年船に乗っているから、少々の揺れなら問題ない。帯刀した剣を走りながら抜いて、その刀身に呪を封じる。
 船を襲うような海獣には、普通の剣など通用しない。硬い表皮に傷すら付ける事は出来ない。だからこそ、俺のような封呪師が必要なんだ。
 封呪とは、文字通り物に呪力を籠める事を指す。呪力が弱くて空間転移や治癒術といった巡導師には不可欠の呪を習得することができなかった俺は、戦闘専門の封呪師になった。
 そして、今に至る。
 全速力で船首までを走り切ると、そこにはすでに他の奴らも駆けつけていた。
 その中で一番若い奴が指示を仰ぐような困惑の表情で俺を呼ぶ。
「旦那!」
 顔は記憶にあっても名までは知らない、俺達封呪師同士はだいたいがそんな関係だ。例え同じ船に乗っていても仕事は独りでやるし、運悪く死んじまう事も少なくない。
 俺を馴れ馴れしく旦那と呼んだひよっこ封呪師も、特別俺と親しい間柄な訳じゃない。単に、俺の方が年嵩で場数が多いってだけのこと。
 注意深く海面に視線を投げながら、状況を確認する。
「何が出た」
「スクァルスだ!」
「クソッ」
 よりによって飛鮫かよ! 
 群れで行動することを嫌うのか、出るときは決まって単体だが、だからって油断しちゃならねぇ。
 気性は至って好戦的。強靭な顎をもつ肉食の海獣。やわな船なら平気で噛み砕いちまうんだ、あいつらは。当たりの強さからして、かなりでけえな。
 様子見で船の真下に潜んでいるに違いない。次に海面から姿を現す時がヤバイ。
 予備添加しておいた呪力じゃ足りないかも知れねぇ。
 俺はスクァルスが獲物――俺たち目掛けて飛び込んでくるのを待って、剣を横一文字に構える。
 その刃に、極限まで呪を封じる。
 緊迫した場の薄闇に、刀身の放つ蛍火が舞う。
 左舷方向から群青の飛沫が逆巻く。盛大に海水を振り落しながら、スクァルスが現れた。
「で・・・デカイッ!」
 後ろから聞こえた仕事仲間の驚愕の声に、内心で舌打ちをする。
 馬鹿か!
「悠長な事を言ってる場合か!」
 思わず檄を飛ばす。
 その声に背を押されるように、仲間が次々に踏み込んで行く。
 一人目の剣は飛鮫の強靭な顎にガチリと銜えられ、そのまま圧し折られる。そいつはその衝撃で後方へと投げ飛ばされた。呪力添加が薄すぎだ。
 一人目の脇から剣を繰り出した二人目の攻撃も、海獣の表皮を僅かに傷つけただけだった。そのかすかな痛みにか、敵の凶悪な視線がそいつに向けられる。
「ヒッ」
 もろに視線が被った二人目は、恐怖に膝を屈した。甲板に尻もちをつき、得物を零したまま後ろにずり下がって行く。
 ヤバい、食われるぞアイツ。
 咄嗟に俺はスクァルス目掛けて突っ込んで行く。
「そこをどけーっ!」
 その声が届かないのか、海獣を凝視したまま動かない。
「誰かそいつを引きずってでも退がらせろ! 間合いに居られちゃやりにくい!」
 残り二人のうちのどちらでも構わない。とにかく腑抜けになった男を退がらせて欲しくて声を張る。
 中空で羽をバタつかせている鮫目掛けて、突進する。
 空間転移は無理でも、俺だって少しの間なら中空に足を掛ける事くらいは出来るんだぜ。
 両足に呪力を分散させて封じ込め、その力で空を蹴り、宙に身を躍らせる。
 ありったけの力をこめて繰り出した切っ先が、青白い光の筋を曳きながら海獣の硬い表皮を切り裂く。ビシャ、と赤黒い血が噴き出す。
 返り血をかわし、後方へ下がりつつ甲板へと着地する。
 気を削げばあっという間にやられる。目線をスクァルスから外す事無く立ち上がって、剣を振って血糊を落とした。



 前編へ後編へ

〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。