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category第2章

4・エルンストとフロウとエアリアル

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 竜巻が去った後、二人はどうすることもできずに佇んでいた。
 すでに暁は去り、薄闇が地上を支配しようとしていた。
「カリアって人と同じ姿なんだぁ」
 リッキーは純粋な感動を覚えたようだ。
 無理やりロードライトに飛ばされて竜巻を静めることは成功したが、メリロには何がなんだかさっぱりだ。
 アカチェの竜巻は、エアリアルが原因だったことは理解できたのだが。
 メリロがつじつま合わせに考え込んでいると、軽い耳鳴りが頭の中を支配しだす。
「魔女がくる・・・」
「へ?」
 呟いた瞬間だった。
「どうやら、竜巻は静まったようだね」
 ライネル二頭とともに飛んできたロードライトは辺りを見回して呟く。
「ねえ、メリロのお師匠さん。俺よく分からないんだけど」
 リッキーはロードライトを見上げて問いかけた。
 当然の質問事項である。
 だが、メリロは内心あせる。
 向こう見ずな少年は、魔女の逆鱗に触れようとしている。
「わからん子だね、まったく」
 面倒くさそうにそう呟いて、ロードライトはしゃがみこむ。
 目線をリッキーに合わせ、そのまなこを覗き込んでまた口を開く。 
「その瞳に映るものだけが、この世の全てではない、という事さ」
 メリロの意に反してロードライトは怒らなかった。
 己とはかなり違う対応に内心小さな疑問を覚えるが、すぐに忘れようとあきらめた。
「カリアは何で竜巻を作ってたの?アーサーって誰?」
「面倒くさい坊やだよ。話してやるから、よく聞きな。二度はないよ」
 そう言って、ロードライトは指を鳴らす。
 砂地に焚き火大の炎が姿を現した。
 あごで示すので、二人はそれに従ってその前に腰を下ろす。
 ロードライトはお気に入りの毛皮二頭を両脇にはべらせて、己はその前に陣取った。
「もう、15・6年前になるかね・・・」




「竜巻までガイドを頼みたいんですが」
 ガイド斡旋所で女は開口一番そう言った。
 今まで騒がしかった室内が、その女の一言で水を打ったように静まり返る。
「お嬢さん、申し訳ないがほかをあたってくれよ」
 責任者らしき男は、穏やかに断りを入れる。
 しかし、微笑んではいるが、その言葉は穏やかではない。
「わたくしは、セルジアンゼル法国ロード、冠位ライト。
 フロウ=ロードライト=バルデアスである」
 皮の外套の下から杖を取り出して、男の目の前につきつける。
 屈強そうな男相手に、フロウは一向に引く気配を見せない。
 それを見た男は、一瞬驚いたように目を瞬いた後、弱ったようにあごをなでる。
「いくら法国のえらいさんといえども、あんた死にに行くようなもんだぜ」
 アカチェの街近くに、このところ原因不明の竜巻が停滞している。
 移動しないので実害はないが、アカチェを目指す旅人は迂回を余儀なくされている。
 しかし、実害がないとはいえかなり大きな竜巻なので、勿論それに近寄ろうという者はいない。
 裏を返せば、危険だと分かっていながらガイドを斡旋することはできない、と言っているのだ。
「その法国の命だからいたしかたないでしょう。使える者はいないのですか」
 男との間を遮っているカウンターをフロウは苛苛と叩きつけた。
 静まり返った室内に乾いた音が響き渡ったその瞬間。
「どうしたんだ、ウィード」
 丁度外から入ってきた男が、不思議そうにカウンターの中の男に向かって問いかける。
「ああ、エルンスト・・・」
 弱ったように、ウィードは語尾をにごす。
「このお嬢さんがどうかしたのか」
 カウンターのところまで歩いてきたエルンストは、フロウの顔を覗き込んだ。
「あなた、ガイド?」
「いかにも俺はガイドだが、そういうあんたは何者だ」
 問い掛けたエルンストの目の前に、下ろした右手をもう一度差し出す。
「私はロードです。法国の命でアカチェの竜巻を静めろと言われています」
 あきらめたようにため息をついて、フロウは右手をおろした。
「竜巻までのガイドを探してる」
「そんな顔しなさんな。きれいな顔が台無しだ」
 こともなげに、大きな声で笑う。
「丁度次の仕事を探してた所だ。俺が引き受けてやるさ」
 その言葉に、フロウは眼を大きく見開いた。
「俺はエルンストだ。エルンスト=アシュヴォレイト」
 エルンストは大きな手を差し出した。
「フロウ=ロードライト=バルデアス」
 ぶっきらぼうに呟いて、フロウは差し出された手を握った。


 竜巻は轟々と唸り声を上げている。
 エルンストはその深部に至るまでに、飛ばされてしまうように思えた。
 踏ん張るのがやっとのところで、フロウはその手に握った杖でペンタグラムを描く。
 描いた光陰が消えずに浮かぶその中に、そっと息を吹きかける。
 ペンタグラムの中心部から、風の精霊が姿を現した。
「中の者と話がしたい。お前、仲を取り持ってちょうだい」
 フロウの言葉に、そっと頷いて精霊は姿を消した。
 しばらくして、豪風は幾分和らいだ。
 そのまま二人とライネル二頭は深部へと飲み込まれる。
 中は驚くほど静かで、外のうるささなど嘘のようだ。
「何ゆえにこのように人里近くでことを荒げる必要があるの」
 フロウは何もない中空に向かって言の葉を発する。
「姿を見せなさい。さもなくば私はお前を滅せなくてはならない」
 その瞬間、美しい女の姿をした者が現れた。
「人の姿をかりてまで、何ゆえ現れる必要があるのか」
 フロウの容赦ない問いに、彼女はその両手を開いた。
 手のひらに、呪の解かれた呼応石がある。
「わたくしとあの人はここ(砂漠)で出会い、恋をいたしました」
 いとおしそうにそれを握り締める。
「アーサーは必ず戻る、と約束して旅立ったのです。
 再び満月が巡るまでに、必ず戻ると」
「そしてその者が戻らぬから、石が呼ぶ方に渡ってきた、と」
 呼応石の雄石は通常光を発することはない。
 しかし、対の雌石を呼ぶ特殊な磁力を帯びている。
「はい。石の声の強いほうへ・・・」
 人の姿をかりてはいても、彼女は人ならざる者。
 人には分からぬ声が聞こえるようだ。
「でも、その先に進むには人の住む町があって。
 どうすればいいのか分からなくて、結局はここで待っていたのです」
 そう述べて、彼女は恥じ入るようにうつむいた。
「しかし、ここに居られても人間は困る。
 私がその者を探してくるから、お前は遠くで小さくなって待っていなさい」
「お前ではありません。エアリアル、と」
 誇らしげに、彼女は言って微笑む。
「ではエアリアル、約束しよう。必ず答えを見つけてくると」
 たとえどんな結末が待っていようとも。
 彼女ははかなげに頷いて、風とともに去っていった。


「じゃあ父ちゃんとはその時知り合ったんだ」
 メリロとリッキーの疑問は概ね解決した。
 しかし、メリロにだけはまた一つ疑問が増えた。
「アーサーって名前しか分からん男を捜すのは苦労した。
 おかげで何年もかかった。まったくワリに合わん」
 ロードライトは不機嫌に呟いた。
 法国から命を受けた仕事とはいえ、解決すれば相応の報奨金が出る。
 しかし、労力を考えればたいした額ではないのだろう。
「家族が墓石に雌石を埋め込んでなきゃ、一生わからん、あんなモノ」
 いくら呼応石が貴重でも、解呪された石がこの世に一体いくつ存在するのだろう。
 それを、一つずつしらみつぶしに調べたと見える。
 忌々しげに吐き出して、更に続ける。
「どっかの誰かみたいだねぇ」
 皮肉たっぷりにメリロに向かって呟いて、また意地悪そうに笑っている。
 リッキーは訳がわからず、おろおろするばかりだ。
「さて、わたしはもう行くからね。お前達、後はしっかりおやり」
 言うが早いか、ロードライトはさっさと行ってしまった。
 魔女の描いた星の残像だけが取り残されている。
 二人は呆然と消え行くそれを見送った。



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