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category第3章

1・オカマロードと半人前ロード(前半)

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 轟々と火は燃えさかる。
 人の肉が燃えている匂いだ。
 ああ、自分が燃えているのか、と妙に冷えた頭で考えている。
 早く助けてやらなくては。
 彼女の左眼には無残にもランプの破片が突き刺さり、その痛みからかずっとうめいている。
 時折薄く開けられるもう一方の瞳が、苦しそうでいたたまれない。
 どこもかしこも火の海で、己の行く手を阻む。
 あと一部屋、後少し。急がなくては。早く。早く。早く。
 ようやくたどり着いた出口の扉をつかむ。
 熱せられた金属の取っ手が、容赦なくその手を焦がす。
 また、肉がこげている。
 だが、そんなことは今はどうでもいいことだ。
 ためらうことなく扉を開ける。
 更なる火の雨が己の背に降りかかる。
 外気に触れた中の火が、勢いを増して己の背を焼いている。
 だが、そんな事はどうでもいいのだ。
 腕の中のこの子さえ助ける事ができたなら。
 無心で火の粉が降りかからぬところまで行き、その腕を下ろして倒れこむ。
 ああ、また肉が焼けている。


 目覚めると、辺りはうす明かりに白い朝靄がかかっていた。
 肌寒い。
 皮の外套のおかげで凍えるほどではないが、砂漠は昼夜の寒暖差が激しい。
 魔女がつけていった火は、消えることなく燃えている。
 その前で暖を取りながら、眼帯で覆われた左側を抑える。
 そしてそのまま膝の間に顔を埋める。
 メリロはリッキーが起きるまで、ずっとそうしていた。


 二人は予定を変更してアカチェの街を目指した。
 竜巻が帰った後、残された場所から一番近い街だったからだ。
 この地方の名を冠するだけあって、最大の都市である。
 日が昇ってすぐに出発したので、午前中の早い時間に到着した。
 中心街だけあって、街中は混雑している。
「ガイド斡旋所にいってみよう。なんか面白い話が聞けるかもしれないし」
 顔見知りがいるのか、得意げにリッキーが言った。
 またあてのない旅に戻ったので、些細な情報でもありがたい。
 中心街の入り口にあるのが常なので、さして歩くことなくそこに到着する。
 斡旋所の入り口で、乗獣を預かってもらい中に入る。
 ガイド斡旋所は便利な所だ。
 入り口では乗獣を連れての旅人のために専門の世話人が常駐している。
 出てくるまで無料で預かってもらえるので、乗獣は勿論、荷の心配をしなくてすむ。
 中では、ガイドを雇わなくても旅の情報を教えてもらえる。
 その内容は、気候や各地の内紛や疫病などさまざまだ。
 ここも例にもれず、旅の情報を求める者など、多くの人が出入りしている。
 リッキーは中央のカウンターのところまで歩いて行って、その中の男に親しげに声をかけた。
「こんにちは、ガンダルフさん」
「おお、リッキー。エルンストは一緒じゃないのか。今日は使いか?」
「・・・まぁ、そんなとこ」
 親子をよく知っているらしい主人の質問に、リッキーはあいまいに返答した。
 無論、訳知りの男に勘当されたとは言えないだろうが。
「なんか情報あったら教えて」
「法国のロードで、冠位のあるエライさんが昨日から街にきてるぜ」
 リッキーの後ろで話を聞いていたメリロは驚いていた。
 もしや、ロードライトではと。
「その人、黒髪に紅い瞳の派手な女ですか?」
「んや、派手だが、ありゃ男だったと思うぜ」
 それをきいてほっと胸をなでおろす。
 すねに傷もつ身ではないが、師匠の気配には敏感なメリロだ。
 あまり関わりあいたくないというもの。
「ついてる!昨日母ちゃんのこと聞くの忘れてたから、丁度いいや」
 二の句を告げるいとまもなくロードライトは帰ってしまったので、昨晩のリッキーの落ち込みようといったらなかった。
 しかし、別のロードが来ているのなら、メリロにとってもそのほうがありがたい。
 ガンダルフに礼を言って、二人はガイド斡旋所を後にした。
 街の広場に人だかりができていると言うので、早速二人はそちらに向かう。
 奇病難病の類が多いのか、広場はたくさんの人でごった返していた。
 仕方なく、二人は最後尾に並ぶ事にする。
「たくさんの人だね」
 リッキーはそういいながら、瞳を輝かせている。
 メリロはその様子をまた複雑なおもいで見つめながら、少年に気づかれぬよう小さく小さくため息をついた。
 太陽が丁度昼に差し掛かるころ、ようやく順番が回ってきた。
 大きく張られた天幕の中に入ると、見覚えのある顔があった。
「いやぁだ、メリィちゃんじゃないの!」
 メリロの顔を確認したロードは、席を立って入り口までかけてくる。
 鬼師匠の友達で、オカマのシェルビーだ。
 メリロは一気に吐き気をもよおしそうになる。
 迫ってくるそのでかい体を確認して、メリロは少し逃げ腰になる。
 ついにシェルビーにつかまって、ぎゅうぎゅうと抱きしめられた。
 むせ返るような香油の匂いで頭がくらくらする。
「で、今日はどうしたの?お友達も一緒?」
 あつい抱擁も無事に済み、ようやくメリロは開放された。
「っま、席に座んなさいよ」
 シェルビーがそう言うので、大きな天幕の入り口にライネル二頭を伏せさせ、示された席につく。
「あたしはシェルビー。シェリーって呼んでね。あなたのお名前は?」
「・・・リッキーです」
「やだ、そんなに緊張しなくても、いいのよおぅ」
 ばち、と音が鳴りそうな勢いで片目を瞑る。
 緊張していると言うよりは、唖然としているというほうが近いのだが。
「それで、今日はどんなご相談かしら?」
「俺の母ちゃん肺砂症なんです。治してもらえませんか?」
 シェルビーは困ったような表情をして、右手でこめかみをもんだ。
 一瞬の間を置いて口を開く。
「酷なようだけど、私達ロードでも治せないのよ、その病は」
 期待が強かったせいか、リッキーの落胆ぶりがありありと目に映った。
 その場でうつむいてしまった彼に、かける言葉が見つからない。
 メリロは黙ってリッキーの背中を軽くたたいた。
 小さく頷いて、ようやく席を立つ。
 メリロはシェルビーに会釈して、天幕の出口へ向かった。
 重い足取りでリッキーも後に続く。
 その後ろ姿に向かってオネエ言葉がかかる。
「あたし『アクアテラ』って宿に部屋をとってるから、夕方訪ねてきて!」
 必ずよ、と叫んでいる。
 頷くでもなくそれを聞いて、二人は天幕を後にした。
 見上げた空はこの空気に似合わず煌々と輝いている。
 あんなに時間をかけて並んだのに、結局は徒労に終わった。
 どんな風に接したらいいのかと、メリロが立ち尽くして考えていると、リッキーが後ろに抱きついてくる。
 ああ、また泣いている、とメリロは思った。
 怒って、泣いて、笑って、リッキーはくるくるとその表情を変える。
 いつからそんな風にできなくなってしまったのだろう。
 それが大人になった証拠だというのなら、大人になんかなりたくなかったのに。
 気が付かずに大人になってしまっていた、と、改めて感じて少しおかしかった。
 ため息が一つこぼれた。



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