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category外伝

外伝 デザートローズ 9

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※ご注意

デザートローズ 第9話に限り、PG-12(12歳以下の方は保護者の方同伴での閲覧)とさせていただきます。
性描写はありませんが、上記に抵触する可能性のある残酷表現が含まれます。調べましたが明確な線引きがわからなかったので、このような判断をさせていただきました。また、12歳以上の方でも残酷表現が苦手な方がおられましたら、申し訳ありませんが、閲覧をお控えください。上記の条件に当てはまる方でどうしても9話をご覧になられたい方がいらっしゃいましたら、遠慮なくコメント欄にご連絡下さい。残酷表現を省く形に書き換えた物をアップさせていただきます(・・・たぶん、いらっしゃらないでしょう)。それでは、どうぞよろしくお願い致します。



 青毛の馬を駆って、男は戦場を紅く染めあげる。
 繰り出される長槍を手にした斧槍で薙ぎ払い、あるいは叩き折りながら、真っ直ぐに敵の本陣を目指す。
 阻む敵の冑(かぶと)を力任せに叩き、呻いたところを横殴りに払って落馬させる。続く馬の横面を先端の重さを利用して強打し、暴れさせて乗者を戦闘不能にする。
 鞍上での戦いに剣は不向きだ。数名と切り結べば、すぐに刃はこぼれて役に立たなくなる。そして、間合も短い。
 ここ数年男が専ら愛用している武器は、切れ味が落ちたとしても殺戮を続ける事が出来る斧槍だった。
 振り被った反動で下ろしたそれに、したたかに打たれた敵兵は、口から血泡を吹いて落ちて行く。衝撃で内臓が傷んだのだろう。
 それを無表情で確認して、すぐに乗騎の腹を足で打つ。その間、僅かばかり。
 戦場での隙はたちまち死へ直結する。驚くべき反応速度で向い来る敵を凌駕し、烈火の如く戦場を駆けめぐって敵兵の膝を折って行くその姿は返り血にまみれている。おびただしいその量が、彼が奪った命の数を物語っていた。
 それが平時の事であれば、敵味方問わず畏怖の視線を投げられただろうが、幸か不幸か今は戦時の最中である。
 彼のその様は続く味方に奮起を与え、相対する者の大半に戦意を喪失させた。
 冷酷なまでの殺戮人形と化して、際どい死線をかいくぐって行く。
 耳鳴りのようにどうどうと地響く無数の人馬の足音と、一撃入魂の男達の発声。鉄錆めいた濃厚な血臭と、掻いた蹄が巻き起こした砂埃。
 そして、死に慄く者の悲鳴。屈強な男と言えども、命尽きる事を悟れば叫んで足掻く。
 首切られれば恐怖は一瞬だが、半端に生き残ればその時間は永劫のように長い。
せめて苦しむ事がないよう出来るだけ確実に倒してやるべきだ、と言ったのはまだ己が剣を持って間もなかった頃の上将だったか。
 だが、確実に息の根を止めると言う事は、それだけ自軍の勝利への足固めをする事でもある。苦しませぬようになどとこの行為に美学を求めた所で、所詮殺戮行為に他ならない。痛みが一瞬に過ぎなくとも、痛いものは痛いだろう。
 そういうぬるさが、極限の状況において生死を分かつのだと判らなかったその男は、あっさりと戦場で散った。
 場面は違っても、やる事はいつも同じだ。
 一瞬気を散じてどこか他人事のように惰性で武器を振るっていた彼の冑を掠めて行く長槍の先端が、右側の視界の端を通り過ぎる。それに、表情一つ変えずに反撃を繰り出す。
 死を恐れる気持ちはない。ただ在るのは、乾いた自分自身のみだ。
 この罪深い行為に何も感じなくなったのはいつ頃だっただろうか。否、そもそも最初から何も感じていなかったような気がする。それが、罪深い事とは毛先程も思っていなかったような気も。
 奪う事も、守る事にも、何も感じない。
 では何の為に戦うのかと問われても、答えられない。
 ある者は生きる為だと言う。またある者は守る為だと。悦楽の為、立身の為、義務の為。戦う理由は人の数だけあるのだろう。
 何の臆面もなく言ってのける者達が羨ましい。
 自身の生死すらどうでも良い己が今や将軍なのだから、滑稽なことこの上ない。
 男は冑の中で薄く笑って、力一杯斧槍を振った。
 空を切るブンという振動音の後、肉にめり込む鈍い手ごたえ。声にならない苦悶を漏らして、敵は人馬共に大地に叩きつけられた。
 次を、と視線を巡らせると、目の前に栗毛の馬に騎乗する者がこちらを見据えている。得物はやはり長槍。他の者達と違うのは、装備がすべてにおいて上物である事だ。
 戦はただ人を多量に投入すれば良いのではない。戦略、兵卒の訓練もさることながら、装備いかんでも戦局を左右する。
 隊の装備を整えるのには金が要る。自動的に、階級が低くなるほどに装備は粗末になる。
 雑兵でレザーメイルを着用出来れば良い方だ。それでも守ってくれるのは胴体のみで、そこからでた頭や手足は守るものさえなかったりするのだから、目の前の者がいかに高い階級であるのかがわかる。
 過去に最上とされていたフルプレートメイルも、現在では実戦向きではないとの理由から、軽量化された可動式のプレートメイルに移行されつつある。
 脳髄にカビの生えた威厳重視の将ならば未だに前者だったりするが、前を阻む敵は後者を身につけている。よって、実戦経験もそれなりにあるという事だ。
「私はスヴァルデン王国将軍、グレムト=ファンネル。貴殿をヤーク=マカニ将軍とお見受けする。その首、私が貰い受ける!」
 ろうろうと響いたその声に、男は内心白けた。
 甲冑の中の相貌は窺い知ることができないが、それでも、何となくその声から男が若いのだろうという事は推察できる。少なくとも、己よりは若いのだろう。そして、まだ青いのだろうと言う事も。
 そのぬるさが生死を分かつのだと、何故判らないのか。
 だれが首を取るかなどと言っている暇があれば、総攻撃でも仕掛ければ良いものを。
 無表情で敵将を見やって、男は口を開いた。
 騎士道精神という名の美学など持ち合せていないから、返事もせず打ち込んでやっても良かったが、そうしなかったのは下らない過去の残滓が甦ったからかもしれない。
「その自信が命取りにならなければ良いがな」
 短く返して、男―――ヤークは馬の腹を蹴った。



 当初の予定を過ぎる事無く敵国スヴァルデンを後にして、ヤークは自国に凱旋した。
 グレムトと名乗った年若い将との戦いは、予想通りそれなりに手ごたえのあるものになったが、生きてきた年数の差が実力に反映されたのか、激しい打ち合いを制したのはヤークの方だった。
 プレートメイルの隙間を縫って斧槍で首を打つのは手間がかかる。技量的にはやれない事もないが、面倒だったので落馬させて乗騎で踏みつけにしたら、敵の雑兵から卑怯だの騎士道精神に反するだのと総攻撃を喰らって難儀する事になった。ここに来て今更何を、と思考出来たのは一瞬だったが。
 そのおかげで負った無数の細かい傷が、歩くたびに擦れて痛痒い。
 ヤークは甲冑姿で玉座の間を目指して王宮内殿の廊下を歩いていた。頭部は脇に抱えている。
 少し前を、同様の格好をした男が歩いている。第一師団一万の兵卒を束ねる師団長である。己とは同じ将軍職にあるが、格から言えば頭二つ分上だ。
 凱旋後初の御前出仕とあって、正装である濃紺の外套がその肩から垂れている。
 その中程に銀糸で大きく刺繍されているのは、この国の象徴とも言うべき狼の紋章である。
 ヤークは魂のないその獣をじっと見据えた。歩む度変化するその表情が、持ち主同様自分を嘲笑っているように見えた。
 己の心中のあまりの滑稽さに薄く鼻白んで、視線を戻して表情を消し去った。
 しばらく、甲冑の擦れる耳障りな摩耗音と衣擦れが、磨き上げられた石を弾く足音に重なる。
 扉の開け放たれた広間に到着すると、そこには玉座へ繋がる道筋の両脇に重臣が整列していた。
 二者は止まらずに玉座の前まで進み、そこで初めて膝を折った。
 ヤークは第一師団長の右後方で片膝をついて頭を垂れる。
「二人とも頭をあげよ」
 王の命に従って、面をあげる。見上げたその顔から心情を読み取る事はできない。
 敵国侵略を首尾よく成し遂げた今、微笑を浮かべたその表情はいつもと比べて上々と言えたが、瞳の奥は笑っていない。
 この笑顔に騙されてうっかり隙を見せようものなら、手駒としてどう動かされるか、先は見えている。自王だが常に緊張を強いられる相手だ。
「まずは、スヴァルデン制圧御苦労であった。お前達には報奨をとらせるゆえ何なりと申せ」
 二人同時に、「はっ」と返して頭を下げる。
「ロドウィン将軍、そなたから申せ」
「では、私はマカニ第三師団長との御前試合を希望します」
 周囲から、期待にどよめきが起こる。
 ヤークはそれに、表情を崩さなかった。視線すら動かさない。内心では、笑いたいのを我慢していたが。
 実力の程はどうあれ、己の負けが確定している御前試合に何の意味があると言うのか。
 本気でやりあえば勝てる自信はあったが、正々堂々となどという上面だけの騎士道精神を盾にとられては、卑怯者と言われるのがおちだろう。
 彼はその事を解っていて、わざと己を辱めようとそんな事を言っているのだ。
 もっとも、騎士道精神を持っていない代わりに繊細な矜持というものも持ち合わせていないから、わざと負けてやる事になんのこだわりもないが。
 ロドウィンが嫌悪に近い感情を己に抱いているのは知っている。故に、今回の出撃が不本意だった事も。
 先の戦線で隊に乱れの出た第二師団が出撃できなかったので、格下のヤーク率いる第三師団と出て行く羽目になったと言うわけだ。
「マカニなどと組まずとも、精鋭第一師団でスヴァルデンを制圧してご覧に入れます」と王に提言した事も知っている。第二師団の調整が八割までの今、これ以上一個師団分解の恐れがある事はせぬ、と一蹴されたらしいが。
 数で勝るならいかんなく行使するのは戦においての鉄則だろうに、それでも矜持が優先なのだから理解できない。否、これもまた騎士道精神というやつなのかも知れないが。
 いずれにせよ、彼が平民出で将軍職に上り詰めたヤークを心底疎んでいるという事は周知の事実だった。
「面白そうだ。三国平定を果たした今、宴席を開く事でもあるし、その席で一試合設けよう」
「ありがとうございます」
 そう返した男は、下げた面でほくそ笑んでいるに違いない。
 あまりのばかばかしさに、ヤークは心の中で呆れた。
「マカニ将軍、そなたは何を所望する」
 こういった場合には、暗黙の了解というものが存在する。
 文官ならば宝玉か土地を、武官ならば武器か防具というのが一般的だ。文官の方がより価値のあるものを希望するのは、眼に見える功績を武官よりも残しにくいとの理由からだ。
 そして、こうして数名同時に報奨を受ける場合、格下の者は格上のものより高いものを受け取ってはならない。
 従って、ヤークに残された答えはただ一つしかなかった。
「この度の戦い、勝利出来たのもひとえにロドウィン将軍の指揮があったからこそ。私はただ、それに従ったまで。私は報奨を受けるに値しません」
 見上げた王は、未だ底の知れない表情を浮かべている。
「相変わらず無欲だな、マカニ将軍」
 責めるでもなく吐き出された王の一言に、ロドウィンの嘲笑が続く。
 彼は頭だけ振り返って見下したように口を開いた。
「そのように謙遜せずともよかろう、マカニ師団長。貴殿の活躍ぶり、帰路の行軍中専らの話題であったというのに」
「ほう」
 興味深げな相の手が、壇上から洩れる。
「敵将との一騎打ち、激しい打ち合いの末に馬で蹴散らして滅多打ちにしたとか。これを聞いて一同震え上がったものだ、貴殿が味方で良かったと」
 その台詞に、周囲から憚るような忍び笑いが漏れた。
 恥ずかしい勝ち方だと揶揄しているのだろう。
 さて、どう返すべきか。農民出だから戦い方も泥臭くなる、と言うべきか。それとも。
「そのような大袈裟なものではないのです。打ち取るのに必死だっただけです。
 ロドウィン将軍のような鮮やかな技量は持ち合わせておりませんので」
 我ながら呆れるほどのへつらいに、意識せず出た微笑を、恥ずかしさから来る苦笑と受け取ったか、ロドウィンは満足げな表情を見せてそれ以上は言及しなかった。幾分か溜飲を下げたのだろう。
「当分戦の予定はないが、備えは怠るな。二人とも、自軍の調整に励め。以上」
 厳しい表情に戻った王の命に、二将軍は再びかしこまって頭を下げた。
 退屈なだけの茶番が、ようやく終わりを告げた。




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〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学

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