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category第3章

1・オカマロードと半人前ロード(後半)

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 二人は夕方近くまで最大の砂漠都市のおのぼりさんを楽しんだ。
 他ならぬリッキーが、もう一度シェルビーに会いたいと言ったからだ。
 リッキーはちょくちょくこの街に来ているらしく、街中の地理や店などに詳しかった。
 うまい飯屋も知っているというので、広場を離れてすぐに取った遅い昼食は確かに安くて旨かった。
 砂漠では水は貴重だから、風呂といえばもっぱら洗い流すだけのものだが、ここアカチェは水が豊富なので湯船が在るのが通常なのだとか、そんなことも教えてくれた。
 この地方最大のオアシスにまで発展したのは、ひとえにこのような特性があったからだろう。
 街の露店では、ほかの砂漠都市ではみかけない珍しい品々も見ることができた。
 また、メリロが見たことがないような、砂漠地方独特の果実などもあり、見て歩くだけでも充分に楽しめた。
 広い街中をいろいろと見て回ると、あっと言う間に夕方になった。
「宿この近くだよ。そろそろ行く?」
 シェルビーのとっている宿の場所も知っていたようだ。
「そうだな。そうしよう」
 丁度いい頃合だったので、二人は『アクアテラ』に向かうことにする。
 リッキーの言った通り、すぐに宿は見つかった。
 冠位のあるロードらしく随分と立派な宿だ。
 この旅に出発して以来、メリロは一度もこの様な宿に泊まったことなどない。
 否、生涯において一度もである。
 メリロは、入店することすら拒否されるのでは、思った。
 しかし、中に入ると、身なりのいい初老の紳士が出迎えてくれた。 
 支配人であろう。
「ウィック様からお伺いしております。乗獣をお預けください」
 いつのまにか宿専属の世話人らしき男がその後ろに控えている。
 二人はそれに従って手綱を手渡す。
 すかさず支配人が、
「お荷物は後ほど、責任を持ってウィック様のお部屋までお届けいたします」
 と述べた。
 支配人の案内について、宿の奥へと足を運ぶ。
 通された部屋はこの宿で一番上等の部屋なのだと、メリロですら理解できるほど豪華だった。
「いらっしゃい。待ってたわ」
 広場ほどではないが、二人はシェルビーの歓待をうけた。
 部屋の奥へと誘われ、若年者達はキョロキョロしながら部屋の中へと進んだ。
 品のいい高級そうな調度品が置かれ、シェルビーは一人で宿泊しているというのに、部屋は確認できるだけでも三つはあった。
 進んで行くと、つきあたりは居間になっていた。
 二人が示された長椅子におずおずと腰をかけると、程なくして扉をたたく音がする。
 部屋の主人の許しが聞こえると、先ほどの支配人が入ってきた。
 その手には銀のトレイを持っている。果物とお茶のセットが載せられている。
「お客様方のお荷物は入り口に置いてございますので」
 実に品のいい支配人は手の物を机に置いてから、そう告げて出て行った。
 シェルビーがなれた手つきで各人のお茶を振舞った後、彼(彼女?)は微笑みながら口を開く。
「相変わらずね、メリィちゃん」
「ロードモリオーンも・・・」
 シェルビーは法国から冠位モリオーンを戴いていた。
 冠位のないロードなどから、敬意を込めて二つ名として呼ばれることは珍しいことではない。
「いやぁねえ。かたっ苦しいのはなしよぅ」
 まあ、今に始まったこっちゃないわね、と続く。
「リッキー、だったわね。力になれなくてごめんなさいね」
「・・・うん」
「お母様は幸せね、こんないい子に恵まれて」
 シェルビーが俯いているリッキーを覗き込んで微笑む。
 リッキーはそのまま頷いて、それ以上話すことはしなかった。
 一瞬、シェルビーと目線が合う。
 母親、という言葉に過敏に反応したメリロの表情を、彼に見られていたようだ。
 メリロは相変わらずな彼を見かえして、苦笑いを浮かべた。
 シェルビーは気にした様子もなく、お茶を飲んでいる。
 メリロの眼に映る彼の瞳の色は晴れた日の空の色。清清しいほどに。
 蜜のような金色の髪。それを長く伸ばして首もとで結わえている。
 耳には水晶の耳飾りを。
 化粧などは一切していないにかかわらず、シェルビーは鼻筋のとおった色男だった。
 オカマであることが残念なくらいだ。
「今日はここに泊まって行って。客室が二つ空いていることだし」
 日も落ちてきているので、メリロはその言葉に甘えることにする。
 あてがわれた部屋に荷物を運び込んだ後、リッキーは一人になりたいと言ったので、ロードと見習は黙ってそれに頷いた。
「メリィちゃん、あなたはまだ話せるかしら?」
 シェルビーがそう言うので、メリロはそれに頷いた。
 重い外套等を荷物と一緒に自分の部屋に置いた後、再び居間へ戻ると、シェルビーが二回目のお茶を淹れ終わったところだった。
「相変わらず・・・不安定なのね、心が。オーラがちぐはぐよ」
 人間は一人ひとり違うオーラを持っているのだという。
 ロードライトはその瞳と同じ、燃えるような紅なのだと、昔彼が言っていたのをぼんやり思い出していた。
 シェルビーはその色彩が透える(みえる)、ロードの中でも数少ない者だ。
「ええ、そうですね。手がかりが見つからなくて」
「でも、今生きているのはあなたでしょう」
「・・・生きている、という実感などないです。俺の時間はあの日に止まったんです」
 それを聞いたシェルビーは、悲しそうな表情になった。
「あの小さな坊やはいつまで一緒に居るの?」
「彼の親から手渡された金が尽きるまで面倒を見ると約束しています」
「アシュヴァンが子供を手放すのはよほどの事よ。子供が少ない民族なんだから」
 シェルビーの言う通り、アシュヴァンには子供が少ない。
 肺砂症での死亡率が高く、若くして亡くなることも少なくないからだ。
 断腸のおもいで送り出す、エルンストの苦悩の表情が、ビアンカの声が、今も心に残っている。
「遅かれ早かれ、あの子は気付く。傷つける前に話してやらなくては」
「そう・・・ですね」
 考えてはいたのだ。
 ただ、自分の中で納得できていなかったから。
「俺が旅している本当の訳を、話さなくてはいけませんね」



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〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学