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category第3章

4・存在意義

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 残された二人は簡単な食事を居間で摂り、早々に部屋に引き上げることした。
 結局リッキーは姿を見せることなく夜は過ぎつつある。
 メリロはあてがわれた自室の寝台の上で、物思いにふけっていた。
 他ならぬリッキーの事だ。
 少年の父親に押し切られる形で共に旅する経緯に至ったが、はたしてこの先もこうして旅を続けて良いのかは悩む所だ。
 懐いているとはいえ、知り合ったばかりの自分と旅するのは心細かろう。
 それにもまして母親のこと気がかりであろう。
 母親の死に目にも会えぬかも知れないと心配しているのも容易に見て取れた。
 リッキーよりも年上なのだから、もっとしっかりしなくてはと思うのに、そうできぬ己の不甲斐なさに自然とため息が出る。
 何度目かのため息をついていた時、部屋の扉をたたく音が聞こえる。
「メリロ、起きてる?」
 リッキーの声だった。
「ああ、起きてるよ」
「入ってもいい?」
 そう訪ねるので、肯定の意味も含めて部屋の扉をあけてやる。
 俯いたまま心細そうな表情を滲ませている彼を、内側から抱きこむようにしながら部屋の中へと導いてやる。
 客室とはいえ豪華なしつらえの長椅子に座らせてやり、己も対面に腰掛けてやんわりとその瞳を見つめた。
「どうした?」
「うん・・・さっきはごめんね」
「いや、いいんだ。隠していた俺が悪いんだ」
 その台詞に首を左右に振りながら、口を開く。
「もし俺がメリロだったらって考えたんだ。
 さっき、俺の肺を母ちゃんのと取り替えてくれって頼もうと思った」
 少年は悲しそうな表情を見せる。
「それって、きっとメリロがしている事と同じだよね。
 だから、俺はメリロを責めたりしちゃだめなんだ」
 恥じ入るように俯く少年を見つめながら、次に伝えるべく言葉を探す。
 少しずつ大人へと成長して行く少年のなんとまぶしいことだろう。
 その光に圧倒される。眩暈すら覚える程に。
 己の人生が終わったのだと知ったあの日から、急速に老成していく感覚を覚えた。
 そんな自分にとって、素直に成長して行くリッキーは光そのものに思える。
 だから、やはり少年の行く末はできる限り見届けよう。
 旅にもう一つ目的を持つことができたなら、魂だけの自分の存在に意味を見出せるような気がする。
「俺もう泣かないようにするよ。もっと強くなるよ。だから・・・」
 ―――これからも一緒に旅をしよう。
 小さき子の言葉が胸を打つ。
 無意識に両の頬に涙が伝う。
 もう、幾年も忘れていたものだった。
 若葉色の瞳からもそれは流れるのだと、その時初めてメリロは知った。
「どうしてメリロが泣くの?」
「すまない」
 止めようとしてもそれは留まることなく流れる。
 何年もせきとめていたかのように流れ続ける。
 それは己の中の汚いもの、醜いものを洗い流して行く。
 どんな人間かも知らないで、こんな自分を信頼してくれる。
 こんな自分と一緒に行こうと言ってくれる。
 他人に必要とされた記憶などない。
 暗闇の中を手探りで生きてきたのだ。
 こんなにもうれしいことはない。
「ありがとう、リッキー」
「ううん、こっちこそ」
 ありがとう。
 こころから、ありがとう。
 生きる屍の自分に、存在意義を与えてくれて。
 ―――ありがとう



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〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学