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category第3章

5・別れ

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「行き先が特にないのだったら、デルトゥースに行ってみたら?」
 三人で朝食を食べていると、シェルビーがそのように切り出してくる。
「あそこは呪力の磁場が強いとこでね、面白い街なのよ」
「面白いって?」
 シェルビーが楽しそうに言うのに食いついた若年者が一名、身を乗り出している。
「多種族が住む街なのよ」
「シェリーちゃん、カリアみたいなのがいっぱいいるの?」
 恐れ知らずの若年者は、事もあろうか冠位持ちのロードを『ちゃん』呼ばわりしている。
 昨晩少年の前で醜態をさらして、落ち着きを取り戻したころ、飲まず食わずだった育ち盛りはいきなり空腹を訴えてきた。
 仕方なくもう就寝しているだろうシェルビーを起こしに行って、食料を調達してもらったのだ。
 幸い寝ていると思われたシェルビーはまだ起きていたし、高級宿の調理場もわがままな客の為に一日中稼動しているらしかった。
 非常識な時間帯に呼び出したのにも関わらず支配人もきちんとした身なりで現れたし、
『適当に』といったシェルビーの注文に対して運ばれたのは、自分達が食べたのと同じ夕食だった。
 宿代がけた違いなのは予想できたが、それだけではない宿側の自尊心が感じられた。
 一人で摂る食事が味気ない事を知っているから、終わるまでメリロはその場にいるつもりだったが、シェルビーも何故だかそれに加わっていた。
 そこで、この派手なオカマと向こう見ずな少年は仲良しさんになってしまったのだ。
「ううん、精霊ってのは居ないわね。でも、精霊種ってのは居るわ。
 精霊種ってのはあんまり垣根がなくてね。人と恋に落ちて子供を産んで暮らしてるし、その他には獣人が居たりすんのよ」
「うわぁ、俺そこ行きたい!メリロ、そこに行こうよ!」
 確かに興味深い街だ。
 正攻法でいったって手がかりがあると決まったわけでなし、そういう街に行くのも良いかもしれない。
「そうだな。行ってみようか」
「デルトゥースまでは遠いから、あたしが飛ばしてあげるわ」
 ここ数日楽な旅ばかりしているので、修行の身でありながらいかがなものかという気もするが、その申し出はありがたかった。
 なにせ初めて聞いた街であるし、リッキーの身の安全を考慮するならば、少しでも楽な旅程であるにこした事はない。
「助かります」
 すまなそうにメリロが答えると、いいのよ、とシェルビーが微笑んだ。
 夜半に食事を摂った筈の育ち盛りは、うきうき顔で朝食をやっつけている。
 その食欲に苦笑しながら、メリロも残りを片付けにかかった。


 世話になった支配人に礼を言って二人は宿を後にした。
 さすがとも言うべき手際の良さで、宿を出たところでライネル二頭を連れて世話人が待ち構えている。
 手綱を手渡されたあと、それぞれ手にした荷物をその背に括りつけていく。
 その作業の合間、シェルビーは宿の前の道になにやら撒いている。
 準備のできたメリロが頭を上げると、道にはペンタグラムが聖水で描かれていた。
「あたしはあの子みたいに軌跡だけで飛ばせないの。さあ、その中に入って」
 ライネルにまたがって、二人はその中に入った。
「お母様の病気を治す方法を見つけるように頑張るわ。だから、あなたも最後まであきらめないで」
「シェリーちゃん・・・」
「こんなあたしでも弟子になりたいって言ってくれたから、あなただけ特別よ」
 そういって、いつものように片目を瞑って微笑む。
「うん、俺も頑張るよ」
 泣くのをこらえながらリッキーは大きな声で叫んだ。
『オン・ロード』
 シェルビーの発した声はリッキーのそれと重なった。
 聖水で描かれたペンタグラムが強く発光したのと同時に二人は飛んだ。
 後には何も残っていない。
 無事に飛び立った若人二人を見送って、シェルビーは呟いた。
「さすがに若すぎるわ」



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〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学