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category第1章

1・旅は道連れ

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 砂トカゲの背に足をかけ、手綱を強く引きこうとしたその時。
 遠くの方から黄砂を蹴散らす音が聞こえてくる。
 やけに速く近づいてくるそれに
「しめた」
 つぶやいて、道筋をさえぎる所まで砂トカゲを歩かせる。
 程なくして一頭のライネルが勢いよく飛び込んできた。
 あわてて手綱を引いたと見えて、つんのめるように動きをとめる。その両前足は、粒子の細かい砂地にめり込んでいた。
「あぶねえってんだよっ!」
 頭上から降ってくる声は苛立ちに満ちている。
 その面は逆光で見えない。声の感じから、若いことだけはうかがえた。
「申し訳ない。道に迷ってしまったんだ。
 もしアシュケナまで行くのなら、同行させてもらえないだろうか」
 できるだけ穏やかに、言葉を選んで頼んでみる。もしもガイドならば気を使っておかなくては。砂漠の住人は礼儀にうるさいのだ。
 ここで断られたら、砂漠をさ迷わなくてはならなくなる。
「伏せ」
 ライネルの主がそうつぶやくと、俊足の獣はそれに従った。
 その背から降り立った主を見つめて少し戸惑う。若いなんてものではない。
 まだあどけない顔をした少年だった。
「砂トカゲと一緒じゃ、帰りが遅くなるからなー・・・」
 困ったようにつぶやく。
 皮の外套のフードからはみ出た髪は赤茶色。
 褐色の肌に、片耳に金色の小さな輪の耳飾り。
 まさしく彼は砂漠の民アシュヴァンの子供だった。彼等は皆それとわかる特徴がある。毛髪の色、褐色の肌、同じ形の耳飾りがまさにそれだ。
「そこを何とか頼むよ。定額とは言わないが、ガイド料も支払う」
 小さな子供は“ガイド料”の一言に片眉を小さく動かした。
 予想外の申し出だったのか、表情がどことなく緩んでいる。
 だが、それを悟られまいとしているのがこちらにはバレバレの態度で仰々しく胸を張る。
「仕事ならしょうがない。俺はリッキー。あんたは?」
 問われてこのままでは、いくら若年者とはいえガイドに対して失礼だろう。
 深くかぶった外套のフードを頭から外し、手を差し出しながら苦笑いを浮かべた。
「俺はメリロだ。よろしく頼む」
 白髪と見紛うほどの、銀髪。大きな眼帯が左頬を覆っている。
 残った方の瞳はウイスタリア色。
 見た目に濃い色合いのリッキーとは対照的に、メリロは全体的に色素が薄かった。
 軽く握手を交わした後、リッキーの方から口を開く。
「アシュケナまでは残り三割ほどだから、料金は百バルクと言いたいとこだけど、使いの帰りだから半分に負けとくよ。五十バルク前払いで」
 アシュタルからアシュケナまでのガイド料は四百バルクほどだった。
 残りの距離が三割なのが正しければ、百バルクは妥当な金額と言える。
 その半分の五十バルクですむのなら、破格の値段と言ってもいい。
「そんなに安くていいのか」
 驚きと申し訳なさで複雑な表情をしたメリロがたずねると、リッキーは言いにくそうに口を開く。
「ただし、父ちゃんには黙っといてくれよ。
 俺欲しいものがあるんだけど、父ちゃんに言うと全部渡さなきゃいけなくなるから」
 黙っていれば解りはしないだろうに、そんなことを言う。
 メリロが不思議そうな表情をみせると、リッキーはさらに続ける。
「あと、帰りが遅くなった理由を、メリロと一緒に帰ってきたからっだって、父ちゃんに一緒に言ってくれたら」
 理由を聞いて納得した。
 足の速いライネルが砂トカゲと一緒に進めば、どうしたって時間がかかる。
 リッキーは使いの帰りだと言っていたから、本来なら親の心配しない時間に帰りつけるのだろうが、一緒であればそれは無理だ。
 当然親なら心配するだろう。怒られるのは必至だ。
 だが、自分と一緒だったことがわかれば、一応納得はするだろう。
「わかった。では、五十バルクで契約しよう」
 メリロは外套の中に手をいれ、ベルトについているケースの中からガイド料の五十バルクを取り出して差し出す。
 水でも受けるように両手を出した少年の、まだ小さなてのひらに銀色の硬貨を一枚乗せた。
 うれしいのか、リッキーはそれをつまんで日に翳して裏表を眺めた後、大切そうにしまいこんだ。
 無理も無いことかもしれなかった。子供にとって五十バルクと言えば大金だろう。
 二百バルクあれば、平均的な家族が一月暮らせる額だ。
 余談だが、アシュタルの乗獣商で最初に提示された額は、ライネルが三百五十バルク。砂トカゲが二百二十バルクだった。どちらも、さらに二十バルクずつ値引きがあったのだが。
「さあ、行こう!」
 リッキーの元気な掛け声とともに、二人はそれぞれの乗獣に飛び乗った。


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 修正済

〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学