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category第4章

1・未知との遭遇

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 師であるロードライト以外の者から飛ばされた事は一度もなかったが、形式は違えども感覚は同じなのだとメリロは思った。
 結果そのものは同じなのだから、考えてみれば当たり前なのだが。
 体に残っているそわそわするような落ち着かない感覚を振り払って瞼を開くと、そこにはメリロの常識とはかけ離れた景色が広がっていた。
 シェルビーが『面白い街』と表現したのは充分に理解できる。
 まず、建物の大きさがちぐはぐなのだ。
 正確に表現するならば等身が違うというのだろうか。
 明らかに人間が住むには小さすぎたり、大きすぎたりする家がいくつもある。
 街行く人々の姿もまた変わっている。
 背中から鳥の様に翼の生えている翼人種。
 二足歩行だが姿は獣の獣人種。
 姿は人間そっくりだが、人形程の背丈しかない小人種。
 その間逆の巨人種。背丈は『人』の二倍ぐらいだろうか。
 今視線を巡らせただけでもこんなにも色々な種に出会う。
 人の他にも多様な種がいる事は知っていたが、このように多種族がいる街には初めてきた。
 呆然と立ち(座り)尽くしていたことにようやく気が付いてリッキーを探すと、自分の後ろで口をあんぐりと開けている。
「すっげー・・・」
 少年が放った第一声にメリロも同感する。
「こんなに多種族で共存しているなんて・・・」
「シェリーちゃんの言ってた精霊種にも会えるかな?」
「そりゃあ・・・」
 その先の台詞は言わずもがなであろう。
 これだけ不可思議な街だ。出会えるに決まっている。
「楽しみ・・・」
 リッキーは楽しそうに、辺りを見まわしてキョロキョロしている。
 メリロも呆然と辺りを眺めていると、後ろから甲高い声が降ってくる。
「あんたら、道の真中で居座ってないでどきな!ジャマだよ!」
 とっさに二人が振り返ると、精霊種の少女が立っていた。
 少女に見えるだけで、実際は成人なのかも知れないが。何せ小柄なので判別しにくい。
「申し訳ない」
 メリロは一言謝って、ライネルを操って道の端に移動した。
 リッキーも同じようにしている。
 少女(女性?)は不機嫌そうな顔をして、それ以上は何も言わず去っていった。
「かわいーなー」
 それだけの事なのに、念願叶ったリッキーはうれしそうに呟いた。
 少年は少女の後ろ姿にまだ視線を送っている。
 一方メリロと言えば、少女の一言でわれにかえった。
「どこに行けば情報が仕入れられるかな・・・」
「とりあえず街を探検してみない?」
 待ちきれないといった様子でリッキーが言うので、メリロはそれに従う事にした。
 二人は他の街と同様に、ライネルの背を降りて手綱を引きながら街を歩く。
 初めて目にする物も多いが、建物の大きさと多種多様な姿に見慣れれば、人しか住んでいない街と大差はない。
 もっとも、見慣れるのには時間がかかりそうだが。
 中心街の露店の陳列がまた面白い。
 ココという名前の甘い果実が、大・中・小と大きさごとに分けて並べてある。
 等身の違う種が混在しているのだから、食物の大きさが違うことにも頷けた。
 いがみ合うことなく共存している証なのだから感心する。
 随分と街を探索したころに、ようやく人に出くわした。
 彼は銀細工屋の店主だった。
「あんた達、旅の人だね」
 ライネルに大荷物、厚手の外套といういでたちなのだから、誰が見ようと旅 人にしか見えないだろう。
 もっとも、街には『人』が少ないので見知らぬ顔だと思ったのかもしれない。
「俺達砂漠からきたんだ」
「坊主は小さいのに達者だな」
 誉められて照れくさいのか、リッキーは商品を見るふりをして俯いた。
「初めて来たので勝手が分からなくて・・・。
 どこか情報が聞けるところありますか?」
「旅の情報かい?だったらその先に『ごった煮』っていう食堂があるから行ってみな」
「はあ・・・」
 一瞬メリロは自分の聞き間違いかと思ったが、リッキーも不思議そうな表情をしていたので、それが聞き間違いでないことが分かった。
 とりあえず店主に礼を述べて、露店を後にする。
 丁度昼にさしかかっているから、食堂へ行くのも悪くない。
 しかし、食堂の名前なのに『ごった煮』とは是いかに。
 色々な食材を煮た、スープのような食べ物が自慢の店なのだろうか。
 釈然としないまま二人は店を探して歩く。
 幾分も歩かぬうちに、店にたどり着いた。
 店先に大きく『ごった煮』の看板が下がっていたので、初めてだがそこだと分かった。
 ありがたいことに、店は中が見通せるほど入り口の大きな扉が開け放ってあるので、乗獣ニ頭を店先につないでいても問題なさそうだ。
 といっても、盗難にあう可能性が消えたわけではないが。
 中から見えるようニ頭を入り口近くの柱につなぎ、二人は店に足を踏み入れた。
 と同時に、二人は店の名前の意味を理解した。
 街の縮図のように、多種族が溢れ返っている。
 席の空きが少なく、店はかなり繁盛していた。
 ライネルが見やすいよう、二人は出口に一番近い席に着いた。
 すかさず、女が注文を聞きにくる。どうやら自然種のようだ。
 頭から髪の毛の代わりに生えているのは緑色の蔦。花畑のように白い花が咲いている。
 メリロは少し慣れたのか、今度はあまり驚かない。否、麻痺したのか。
「ご注文は?」
「この店のおすすめは?」
「ごった煮だね」
 女のその返答に、リッキーはプッと噴出した。
 大声で笑いたいのだろうが、我慢して卓に突っ伏している。
 その肩が小刻みに動いている。
「ではそれを二つ。あと、花茶をもらえますか?」
 リッキーの様子に怪訝な表情を浮かべながら頷いて、注文を聞き終えた女はカウンターの方へと歩いていった。
「笑うなよ、リッキー」
「だって!」
 料理までごった煮では、笑いたい気持ちも分かるが。
 料理が先か、はたまた客が先か。
 ようやく収まったらしい少年は育ち盛りよろしく卓に顔を載せたまま、
「腹減った・・・」
 と呟いた。
 見慣れたのか、それとも食い気が勝るのか、リッキーは周囲に興味を示すことなく料理がくるのを待っている。
 すぐに料理が運ばれてきたので、ごった煮と銘打たれた料理を覗き込む。
 旨そうな湯気が立ち上るそれは、こぶし大の肉と何種類かの野菜が、薄く張られた澄んだ色のスープの中に浮かんでいるという具合だった。
 なるほどこれはごった煮と銘打つに間違いはない。
 それに続いて、パンとチーズが乗った皿と花茶が置かれた。
 食堂では要らないと言っておかない限り、メイン料理にパンとチーズがついてくるのが常なのだ。
 どうやらそれは、この地方でも同じらしい。
 注文どおりのものを運び終えた女は、また店の奥へ去っていった。
「うまそー。いただきます」
 お待ちかねの育ち盛りが、言うが早いかスプーンに食らいつく。
「うまーい!」
 先に口にしたリッキーの感想に表情を緩めながら、メリロも一口目を口にいれた。
「旨いな」
 色気のない名前だが、おすすめというだけはある。
 肉はナイフを入れなくても良いくらいに柔らかく、スープもなんとも言えぬ旨みがある。
 シェルビーに泊めてもらった宿の料理もまた別の意味で旨かったが、こちらは懐かしいような、素朴な味がする。
 手間はかかっているが、素材の味を活かしてあるといった感じだ。
 旨い料理に舌鼓を打ちながら、二人はきれいにそれらを食べ終えて、暖かい花茶をすすりながらぼんやりとしていた。
 そこへ、先ほどの自然種の女が現れる。
 食べ終えた食器を片付けに来たのだ。
「ここで旅の情報が得られると聞いて来たのですが」
 メリロがそう尋ねると、女は何も言わずに奥手のカウンターを指差した。
 そそくさと食器を引き上げて、愛想もなく去って行く。
 その後ろ姿に礼を言って、メリロは席を立った。
 リッキーと連れ立って、カウンターへ歩いて行く。
 繁盛しているが、導線の取れた店内は移動するのに不便さを感じない。
 カウンターの中には、男が一人立っていた。
 その男に向かって、先ほど女にしたのと同じ質問をする。
「情報屋は俺じゃねえよ。1バルクと500だ、兄ちゃん」
 先に代金を要求する店主に、思ったよりも安かった食事代を支払う。
 カウンターに置いた銀貨六枚を確認した店主は、
「まいど」
 言うのと同時に、いかめしい顔を歪めて笑った。否、笑ったように感じた。
「おい、ダロン!客だ!」
 店主はカウンター近くの丸卓を陣取って、カードゲームを興じている一団に向かって叫ぶ。
 ダロンと呼ばれた翼人種の男が歩いてきた。
 彼が抜けると、残りの者達はうれしそうにカードを混ぜはじめる。
 どうやら勝負は彼に優勢だった模様だ。
「せっかく調子よく行ってたのによ、カルーサ」
「文句いうな、客だろう」
「チッ、こんなお子様二人じゃやる気でねぇよ」
 メリロよりも頭二つ分上から吐き捨てる。
「で、どんな情報が欲しいんだ?」
 嫌そうにメリロを覗き込むダロンを、威嚇するように睨み付けて口を開く。
 リッキーは心配そうに様子をうかがっている。
「情報屋と言うからには、情報料がかかるのか」
「モノにもよるがな」
 ニヤニヤしながら、ダロンは返答してくる。
 メリロはその鳥肌が立つような表情に、強硬手段をとる事にする。
 そうしなければ、きっと騙されてしまうような気がする。
 腰につけた小刀を抜き差って、その喉元に突きつける。
「おい、兄ちゃん!」
 カウンターの中の店主が、思わず叫ぶ。
 店内の客が息を飲む。
 ざわめきが止み、全ての視線が一点に集中する。
 メリロの視線と、ダロンの視線がかち合う。
「俺はセルジアンゼル法国ロード。メリ=ロード=ラトバルクである」
 己の首元に突きつけられた抜き身の刃に、片翼の杖が浮かんでいるのを見取ったダロンは、左手で両目を覆った。
 そして、何がおかしいのか肩を揺らしながら笑っている。
「参ったよ。参った。俺の負けだ兄ちゃん」



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