FC2ブログ
category第4章

2・ナナツキヨの扉

trackback--  comment--
 両手を肩の上にあげて、降参のポーズをとったダロンを見て、メリロは刀を収めた。
「で、どんな情報が欲しいんだ」
 一連の出来事を固唾をのんで見守っていた者達も、騒ぎが収まったと見えて、再びざわめきを取り戻してゆく。
 自分達への感心が止んだところで、メリロは問いに対する答えを返した。
「どんな難病も治すことのできる薬はないか?」
 それを聞いたダロンは眉根を寄せる。
「そりゃ、あんたらの仕事だろう?」
「ロードにだって治せない病はあるさ。呪術とて万能ではないからな」
「そりゃ、ロードの沽券にかかわる問題だ」
 また、面白そうに皮肉たっぷりの笑みを浮かべている。
 やはり、狡猾そうなこの男が気に食わない。
「早く結論を言え」
「そう急くな。薬ではないが面白い情報がある。
 信憑性にかけるから真実かどうかは確証のない話だが・・・」
 先を濁すところ、それ以上は金がいると言うことらしい。
 どうせ財布と要相談なのだから、情報料を聞いたとて無益ではあるまい。
「いくらだ」
「そうだな・・・まけておくさ、10バルクに」
 微妙な値段だった。情報買いの相場としては安いほうだと言えたが、その中身が相応の値段であるのかは見極めきれぬ所だ。
 実際、確証はないと当のダロンが述べている。
 それを考慮しての安さなら、有益な情報ではないのかもしれない。
 薄給の身の上で、無益な情報に10バルクも出資するのは少々つらい。
 旅する以上はこんなことがあるから、どうしても金銭に余裕のある行動ができない。
 だから、魔女には薄給だと分かってもらいたいのに。
 だが、今はどんな情報でも欲しいところだ。
 だらだらと各地を転々としている訳にも行くまい。
「前金で半分。有益とみなせば残り半分だ。足元を見られてはたまらんのでな」
 到底うまく行くとは思えなかったが、無理を承知で返答を返す。
「あんた、なかなか処世術に長けている。商売間違えてんな」
 また面白そうに笑って、今度はきゃらきゃらと声まであげている。
 翼人種というのは元来陽気な性質なのかもしれない。
 あくまでメリロがそう感じただけだが。
「っま、長いもんには巻かれろと言うし、お前さんの言うようにしようじゃないか」
 案外あっさりと応じたダロンをみて、メリロは一瞬気を緩めそうになる。
 だが、まだ油断してはいけない。
「じゃあ、広場に行こう。他のモンに聞かれちゃ、俺の商売上がったりだ」
 そう言うと、ダロンは出口の方へ向かって歩く。
 ふたりはその後についてゆく。
「メリロ、あの人飛ぶのかな」
 ダロンに聞こえないように、リッキーが小声で話し掛けてくる。
「翼があるから飛ぶんだろうな」
「空飛ぶのって気持ちいいのかな・・・」
 メリロの警戒心などどこ吹く風で、リッキーはダロンの後ろ姿を眺めながら羨ましそうに呟いた。
 少年の未知なる者への憧れは当分消えそうにない。
 出口につないであった乗獣ニ頭はどうやら無事だったようで、主人の姿を見つけると立ち上がって出迎えてくれた。
「こいつら、お前さんたちのか。初めてみた」
 少年同様未知なるものへの好奇心は強いとみえて、ダロンはひとしきりライネルを眺めていた。
 主人と共に現れたからダロンに対して敵意を向けたりはしないが、少し警戒するそぶりを見せる。腰の辺りの毛が少しだけ逆立っている。
 先ほどの嫌な笑みとは違い、ライネルを眺めながら笑う姿はどこか少年のようだ。
 そのギャップに内心驚きながら、ダロンの次の行動を待った。
「広場はあっちだ。案内するからついてきな」
 そう述べる彼の声に頷いて、ニ人は再び手綱を引いてついてゆく。
 客の事を考慮してなのか、ダロンは長い足で歩みを進めている。
 その背中の翼も歩くのにつられて上下するものの、羽ばたくようなそぶりは見せない。
 広場に到着すると、彼はそこに設置された噴水のへりに腰掛ける。
 メリロとリッキーは自然と彼の前に立つ形になった。
 メリロは前金の5バルクを腰元の小物入れから取り出して、ダロンに差し出した。
 だまってそれを受け取った彼は、間髪要れずに話し出す。
「ここからしばらく進んだ森のなかに、七月夜の時だけ開く陣があるという」
「ななつきよ・・・?」
 リッキーは七月夜の意味がわからないとみえて、首をかしげている。
 それは、七年に一度の周期で巡ってくる月食のことを意味している。
 それをリッキーに耳打ちしてやると、初めて聞いたと彼はもらした。
 無理もない。周期で言えば、近日のはずだ。
 前の七月夜は彼がまだ幼かった頃であろうし、それは真夜中にみられるので、知らないのも当然のことと言えた。
 メリロがそれを見たのは10歳の頃だった。
 なぜか不吉な気がして、妹のメリィと肩を寄せ合って眠りについたのを覚えている。
「その陣を通ると、フェニックスの巣穴に続いていると言われている」
 ま、誰も見たことがないのだから眉唾もんなのは間違いがないが、とそれに続いた。
 先ほどから、ダロンの手元を行きつ戻りつしながら銅貨が宙を舞っている。
 パチンと言う音と共に勢いよく銅貨を手のひらに回収して、手遊びをやめた彼がメリロの相貌を見つめる。
「で、どうするお前さん」
「そこに行った者は今までいなかったのか?」
「いや、戻ってきた者がいないと言うだけだ」
 それならば、道は困難だということを示している。
 待ち受けているものが何であるのかも分からず、冒険者としてのレベルも未熟な自分がまだ幼いリッキーを連れて守りきる自身がなかった。
 ならば、答えは否だ。
「メリロ、俺そこに行きたいよ」
 メリロが言葉を発するよりも早く、リッキーが口を開いた。
 その眼を覗き込むと、彼の哀願する気持ちが現れていた。
 フェニックスといえば伝説の中でしか存在しないものだ。
 精霊と言うよりは神獣というのだろうか。
 その燐光は人の心を癒すと言い、その羽はどんな傷をも癒すと言い、その血肉は不死の命を与えると言う。
 どんなに可能性がわずかでも、母を助けることができるなら掛けてみたい。
 メリロはリッキーの強い意志を感じた。
 これは反対しても首を縦には振らないだろう。
 メリロは細く静かな息を吐き出した。
 守りきれるだろうか。否、守りきってみせなければ。
 妹の時の二の舞は決して踏むまい。
「俺の負けだ、リッキー」
 その言葉を聞いて、喜怒哀楽の豊かな少年の表情が一気にほころぶ。
「ありがとう、メリロ」
 また、手遊びを開始したダロンの手元の銅貨が、陽光を弾いてきらめく。
「行くのか?」
「ああ、残りを支払う。だから陣の開くところまで案内して欲しい」
 それを聞いたダロンの視線が、コインを追って上下する。
 彼はじっと口を閉ざしたまま、先をつむぐことをしない。
 押し黙ったまま数度それを繰り返し、先ほどと同じようにまた勢いをつけてそれをやめた。
「いや、残りはいい。だが、俺もパーティに入れてくれ」
 その言葉の意味合いが分からず、メリロはダロンの瞳を射る。
「他意はねぇよ。ここの連中は平和ボケしててな。俺も以前から入って見たいと思っていたが、パーティ組む面子がそろわなかったのよ」
 手元の銅貨を腰元に吊った皮袋にしまって、彼は先を続ける。
「生存確率から言っちゃ、面子が多いにこしたこたねぇ。お前さんらにも悪い話じゃないと思うがな」
「最深部まで行って、俺達を落としいれる気かもしれん」
「そこまで食うにつめちゃいねぇし、永遠の命とやらにも興味はねぇよ」
 ならばどうして。
 メリロの疑問を敏感に感じ取ったのか、ダロンはそれを聞く前に口を開く。
「しいて言うなら、俺は退屈なのさ。平和ボケの毎日がな」



 前へ次へ

〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学