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category第4章

3・フェアリーキャティ

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 妙な連れができたものだ、と思いながら、メリロはダロンの後ろ姿を見ながらため息をついた。
 リッキーは新たに加わった仲間が気に入ったのか、もうすっかり仲良くなっていた。
 手綱を引きながら、メリロは自問自答する。
 己の選択は間違っていなかったのか、と。
 しかしいくら考えても、納得できるほどの判断材料をメリロは持ち合わせていなかった。
 どのみちだめだといっても、場所を教えてもらえなければ同じことだ。
 どう転んでもダロンに支障はないようにできている。
 それならば立ち止まるより進んだほうが良いのかも知れなかった。
「あ、キャティだ。おーい、キャティ!」
 前を歩いていたダロンがいきなり声をあげた。
 長身のダロンの影で見えないが、どうやらそのさきに知り合いがいるらしい。
「あ、あのときの子だ!」
 リッキーも見たことがある人物らしい。
「おまえキャティの事知ってるの?」
「たまたま道で出会っただけだよ」
 メリロは気になって、リッキーの後ろの方に寄った。
 身長の低いリッキーの後ろに行くと、前がよく見渡せた。
 そこに見えたのは、到着したばかりのとき道で注意してきたあの精霊種の少女だった。
 三人がキャティの近くまで歩いて行くと、彼女は複雑そうな表情をしていた。
「あんたたち・・・」
 言いかけた先を気にせずにダロンが口を開く。
「キャティ、またお袋さんとなんかあったのか」
「まぁ、そんなとこ。客かい?」
「そうだったんだが、今からは仲間だ」
 仲間という言葉に反応して、キャティの瞳が大きく見開かれた。
「あんた、まだあきらめちゃいなかったの」
「そんな簡単にあきらめるかっての。キャティも行くか?」
「あたいは・・・おっかさんほっとけないからさ」
「そうか。でも出発は今日の夕方だ。もし気が変わったらこいよ」
 じゃあな、と後ろ手を振りながらダロンは歩き出す。
 ニ人もそれにならう形で歩き出した。
「メリロ、すごい偶然だね」
「そうだな」
 後ろ髪惹かれるように、リッキーが後ろを振り返る。
 ライネルに引っかかって危うくこけそうになったが、とっさに体制を立て直した。
 恥ずかしそうに笑うのを、メリロは見てなかったふりをした。
「みてただろっ」
「ばれたか」
 一斉にふたりで笑う。
 ダロンが不思議そうに振り返ったが、また何事もなかったように前を向いた。


 結局ニ人はダロンの家に行く事になった。
 夕方まで他にすることがなかったからだ。
 当のダロンはといえば、『ごった煮』での仕事はそっちのけだ。
 常駐じゃないのかと尋ねれば、とくに決まっていないと言うので不都合はないらしい。
 どうやら随分と気ままな生活をしているらしかった。
 案内されたダロンの家は、複数の部屋が同じ建物になっているものの二階部分だった。
 もちろん、出入り口は一つ一つの部屋についている。
 メリロはそのような建物を街中で見たのは初めてだった。
 まるでロード養成学校の寮のようだと思った。
 メリロは火事で家族を失ってから身寄りがなかったため、すぐにロードライトに弟子入りした。だから学校にも、まして寮にも入った事はなかった。
 ロードライトのだだっ広い屋敷に住み込んでいたのだ。
 そのような経緯でロードになるのはまれな事といえる。
 通常は養成学校に入学するのが一般的だった。
 案内されて中に入ると、すぐに何もないへやと奥のほうに小さな炊事場及び不浄場とがあるだけの質素な部屋だった。
 他に家族はいないらしく、一人ならこれで充分だと思われた。
 だが、今は事情が違っているためかなり狭いが。
 さすがの男所帯だけあって、あまり掃除は行き届いてないようだった。
「好きなとこに座ってくれ。って、言えるほど広くはないか」
 仕方がないので、二人は自分の後ろにライネルを伏せさせ、その脇にもたれる形で座り込んだ。
 すかさず、リッキーがライネルニ頭に餌と水をやる。
「飲みかけだけど大丈夫かな?」
 そう呟きながら、先日飲んでいた水袋の残りを直接含ませている。
 何事もなくおとなしくしているので、特におかしくもなかったようだ。
 それからしばらくして、炊事場の奥に消えたダロンが、花茶とココを持って現れた。
 トレイからニ人にそれぞれをとって手渡す。
 ニ人はダロンに礼を言って、口をつける。
 ダロンが入れた花茶は、濃い目だった。かなり甘い。
 口直しのつもりでかじり付いたココの実は、花茶の甘さで味がわからない。
「で、あんたロードとかいったな。何でそんな薬が必要なんだ」
 ものすごく甘い花茶をものともせずに口にしながら、ダロンは不思議そうに尋ねる。
 どうやらそうとうの甘党らしい。
「話す必要はないと思うがな。あとで責められてはたまらないので言っておくが、俺はろくな呪が使えないから当てにしないでくれよ」
 それを聞いたダロンは、心底びっくりしている。
 あんぐりと口を開けたまま、二の句が告げられないでいる。
「お前さん、ごった煮での茶番はありゃハッタリだったって訳か」
「ロードには間違いないがな。なんせ俺は呪を習得してないんだ」
 見習だとか、どうして呪が使えないのか、などは説明する気はない。
 どうせ説明したところで事実には変わりないし、第一面倒くさい。
「若けぇのに肝が座ってるってだけでも変わってるのに、ロードなのに呪が使えねぇときた。ほんと、職業間違ってんな」
 そういって、きゃらきゃらと笑う。
 メリロには何がどうおかしいのか分からない。
「でもメリロ、少しは使えるんでしょ?」
「すこしだけな」
「見せてよ」
 好奇心満開の笑みで、メリロを下から覗き込む。
「駄目。必要があったら」
 チェーと呟きながら、元に戻って花茶に口をつけている。
 リッキーは不服そうだが、実はメリロには自信がないのだ。
 オーラが不安定だから、いつも制御しきれないのだ。
 また今度といったものの、それ自体もできてもできなくても差しさわりがないような呪なので、必要に迫られる事がないような気がした。
 そんな時だった。

 ドンドンドン

「ダロン、いるの」
 扉の奥から、女性の声がした。
「キャティだ」
 ダロンが呟いて花茶を手に持ったまま扉を開く。
「あたいも一緒に行くわ」
 開口一番だった。



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