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category第5章

2・二分の一(ニブンノイチ)

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 ちらちらと瞼を透かして差し込む朝日にまぶしさを覚えて、メリロは目覚めた。
 一体何が起こったのかと少しだけ反芻して、すぐにはっと瞳を見開く。
 そうだ、みなはどうなったのだ。
 勢い良くその半身を起こしたところで瞬時に胸をなでおろす。
 誰一人欠けることなくそこで眠り込んでいる。
 乗獣までもがそうだから、メリロはあえて起こさずにいた。
 随分と気持ちがよさそうに眠っているのを見て、しばらくそのままにしておこうと思ったからだ。
 扉を開いたときは闇が一面を覆っていたが、朝を迎えているところをみると、随分と眠り込んでいたらしい。
 夢と現のはざまのようなあやふやな記憶で、はたしてあれは現実だったのかと自問してみる。
 神獣と対峙していたとき、そこで話していたのは己のみだが、はたして他の者はどうであったのだろう。
 目覚めたら問うてみなければ。
 そうしなければ、本当にあれは夢だったと思ってしまいそうだ。
 メリロのそばにいるものがもぞもぞと動く気配を感じて、ぼんやりと前に向いていた視線をそこへと引き戻す。
 まず目覚めたのはリッキーだった。
「あれ、朝だ」
「おはよう。リッキーはフェニックスに会えたか?」
「うん、会えたよ。でも、治してもらうことはできなかったよ」
 何が、と問うことはない。
 もちろん、少年の望みはたった一つしかないのだから。
「そうか」
 何も言わずに頷く少年の表情は、少し沈んでいるように思えた。
 その表情が、徐々に驚きの表情へ変わっていくのをメリロはいぶかしんで見ていた。
 どうかしたかと問いかけようとしたその刹那。
 リッキーはその握り締めた小さな手のひらをそっと開く。
「メリロ・・・」
 そこにあったものは、小さな羽毛だった。
「フェニックスの羽・・・か?」
 メリロのその言葉に、また彼は瞳を見開く。
「あの時だ・・・」
「あの時?」
 少年はその時の状況を克明にメリロに話してくれた。
 そしてようやく神獣の言葉の意味を理解したのだ。
 母の命を救うのに、他の命を犠牲にするという事が。
 フェニックスとあいたいしたとき、けして彼らは物理的に熱くは感じなかった。
 きっとそれは、その身に纏った炎がこの世のものでないか、幻かなにかだったからだろう。
 しかし、消滅してゆくそれを見たリッキーは、はっきりと尽きて行く命を感じ取ったのだ。
 きっと羽を手に入れるには、あれを消し去る必要があったに違いない。
 最後の仕事と言ったのが、神獣にとって自分で選択した結果かそうでなかったのかは今となっては知ることはできないが、リッキーが消え行く光に差し伸べたその手が、それを掴み取ったことは明らかだった。
「どちらにせよ、灰砂症を治す方法が見つかるかも知れないな」
 リッキーは母親だけだと思っているが、エルンストも病魔におかされているのをメリロは知っているから、内心で少し安堵していた。
 リッキーが手に入れた羽で治してやれるのは、おそらく一人だけだろう。
 フェニックスは人知を超えた生き物だから、ひょっとしたら母親だけが病なのでない事を知っていたのかもしれない。
 この少年を本来あるべき所へと返してやることができるかもしれない。
 そう思うと、メリロは少しだけ肩の荷がおりたような気がしていた。
 少なくとも、二親のどちらかは助かるのだ。
「メリロ、俺家に帰ってもいいかな?」
「ああ、どうにかして早く帰ろう」


 それからしばらくして残りのニ人が目覚めると、皆で目的は果たせたのかを確認しあう。
「難病を治す方法は見つかったのか、チビ」
 チビという言葉に嫌そうにしながら、リッキーは黙って頷いた。
「そういうあんたはどうなんだ、ダロン」
「俺か?俺はションベンちびりそうになったが、満足したぜ。
 ヤツのご尊顔を拝めたからな、一応」
 心底楽しそうにきゃらきゃらと笑うので、メリロは聞いて損をしたと思った。
 何か願い事があるように感じていたが、どうやらそれは気のせいだったようだ。
「興味本位でこんな所まで来るなんて、あんたも相当退屈してたんだな」
「まあな。で、キャティもボーボーしたヤツみたか?」
 神獣もダロンに言わせれば形無しである。
 それを聞いたリッキーは腹を抱えて笑っている。
「ボーボーって・・・。まぁ、みたよ。見ただけさ」
 もう二度とごめんだね、と呟く。
 彼女の表情だけが固く、相当怖かったのだろうとメリロは思った。
 ひとしきり話した後、目的を果たした一行がその場に立ち上がると、ペンタグラムはきれいに燃えつきていた。
 黒くこげたそのあとは、入る前とは明らかに違っていた。
 おそらくもう、扉が開くことはないかと思われる。
 この部屋の番人がいなくなったからだろうと推察された。
 再生と消滅を繰り返すのなら、またどこかで出会うことができるかもしれないとメリロは思った。



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