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category第1章

2・どうして

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 太陽は上昇から、下降へと転じている。
 新たな仲間が増え、メリロの旅はにぎやかになった。
「メリロってさ、どこへ行こうとしてるの?」
 リッキーがメリロの方を見ながら聞いてくる。
 併走しているリッキーは、砂トカゲに立ち乗りしているメリロと目線が同じだ。
 上背のないリッキーの表情がみえるので話しやすい。
 速度が遅いせいか、リッキーの声も聞き取りやすい。
 しかし、速く走れないライネルの方は若干不服そうだ。
「目的地があるわけじゃないんだ。調べたいことがあってね。
 各地を転々としながら情報を集めている」
 ふうん、と納得したようなしないようなでリッキーは頷いた。
 目線を遠くの方に戻して、さらに問いかけてくる。
「メリロって、年はいくつ?」
 いきなり質問攻めだ。
 子供特有の好奇心からなのか。ひとり立ちしたガイドなら、客のことは詮索すまい。
「俺は十七だ。リッキーは?」
「俺十二。メリロは小さいね」
 十七歳の割には、ということだろう。
 いくら小柄とはいえ、頭ひとつ以上小さなリッキーに言われたのでは、苦笑を禁じえない。
 薄く笑いながら、今度はメリロから問いかける。
「リッキーの欲しいものって何だ?」
 これくらいの質問は許されるだろう。
 だが、気を悪くしたのか。
 しばしの沈黙が流れる。
 まずいことをきいたかと思ったそのとき、リッキーが重い口を開く。
「母ちゃんがさ、病気なんだ。薬を買ってやりたくて」
 うつむいて、少年はさらに続ける。
「父ちゃんは、母ちゃんがもう長くないからって、薬を飲ませる事もしない。
 俺が何度言ったって、無駄だ、の一点張りでさ」
 こんな小さな少年が欲しがるにはやけに多い額だと思っていたが、薬欲しさだと言われれば納得できる。
 この地方で助かる可能性が低いほどわずらう病気など数えるほどしかない。
「肺砂症か、その病は」
 メリロがそうたずねると、はじかれたように顔をあげる。
「知ってるんだ」
「ああ」
 肺砂症とは、書いて字の通り、肺に砂が溜まる病だ。
 主に砂漠に住まう者がかかりやすく、有益な治療法がないのが現状だ。
 呼吸困難など、重い症状を伴う。その症状を緩和するだけの薬があるのみだ。
 それもかなり高額で、子供の小遣いではとても買える代物ではない。
 治らなくても助けてやりたいという思いは、愛されて育った証拠だ。
 そして、長く苦しむくらいなら、早く楽にしてやりたいと思うのもまた、愛するが故の思いやもしれぬ。
 だが、純粋なこの子供にそれが理解できるだろうか。
「父上を悪く思わないほうがいい。
 愛する人を亡くすことが、つらくない者などいない」
 諭すつもりなどなかったが、結果的にはそうなってしまった。
 不服そうに、リッキーはつぶやいた。
「メリロにはわかんないよ」
「わかるさ。俺も、妹を・・・」
 いいかけて、続けることをためらう。
 結果なくしてしまったようなものだが、まだ生きている。
 いや、もう死んでいるのか。
 まだ妹の肉体は生きている。妹には心がないのだ。
 命とは、肉体と心があって初めて命というのだろうか。
 ならば、やはり妹は死んでいるのかもしれない。
 そう伝えると、少年は眉根をよせて悲しそうにメリロを見つめる。
「助けてあげないの? 助けたいと思わないの?」
 泣きそうな声で、少年は叫ぶように吐き出す。
 また、質問攻めだ。
 自重めいた、ため息をひとつ。
「助けてやりたいさ。
 だから、旅をしているんだ」
 自分もかなり子供なのかもしれない。
 聞き分け良くなんてなりたくない。そんな時が自分にもあったように思う。
 だから、あてなど無くても、保証なんかなくても、胸騒ぎを振り払うために旅立ったのかもしれない。
 運命のあの日。
「だったら、俺の事もわかるだろ!」
 そう叫ぶと同時に、少年は手綱をひいて歩みを止める。
 はじけた涙腺から、涙が途切れることなく流れる。
 その雫が、光を弾いてきらめいている。
 なんと純粋できれいなのだろう。
「泣くな」
 己も歩むことをやめ、近くにより沿ってその頭をいだきこむ。
 しばらくそうして、少年の嗚咽だけが聞こえていた。
 
 神がいるのなら、この声が届けばいいのに。
 心から、メリロはそう思った。


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 修正済

〔テーマ:自作小説(ファンタジー)ジャンル:小説・文学